2020年 8月 4日
敵基地攻撃能力の保有の検討の断念を求める(談話)
社会民主党幹事長 吉田忠智
1.本日、自民党は、「国民を守るための抑止力向上に関する提言」を了承し、安倍首相に報告した。自民党提言は、「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力」として、 直接的な表現を避け言葉巧みに、事実上の敵基地攻撃能力の保有の検討を求めるとしている。しかし、敵基地攻撃能力の保有は、平和主義や戦争放棄という憲法の理念に背き、戦後曲がりなりにも建前として堅持してきた「専守防衛」や「必要最小限度の実力」すらかなぐり捨てる暴挙であり、決して看過できない。「盾」である「イージス・アショア」の断念に乗じ、なし崩し的に「矛」である敵基地攻撃能力の保有を容認することは断じて許されない。社民党は、先制攻撃であり国際法違反にもなりかねず、憲法上も許されない敵基地攻撃能力を保有しうようという動きに強く抗議し対決するとともに、政府に対し検討を断念するよう求める。
2.今回の敵基地攻撃能力の保有の検討の契機は、6月15日に河野防衛大臣が「イージス・アショア」配備計画の停止を表明し、20日に安倍首相が代替計画として敵基地攻撃能力の保有も含めて議論すると発言したことにある。自民党は前のめりに検討しているが、まず首相官邸が主導した「イージス・アショア」計画の経緯を精査し、どこに問題があったのか責任を明らかにすることが求められる。防衛政策の失態を省みることもなく、問題をすり替え、焼け太りを図ろうとすることは許されない。
3.敵基地攻撃能力自体は、1956年の鳩山一郎首相の「『座して自滅を待つべし』が憲法の趣旨とは考えられない」との答弁を根拠に、法理論上は認められていると解されてきた。しかし、鳩山答弁は、「他に手段がないと認められる限り」、「法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきもの」としているにすぎない。現実には、日米安保条約に基づき、米国が攻撃する「矛」の役割を担い、日本は「専守防衛」の「盾」に徹し、敵基地攻撃能力の保有は見送られてきた。日本が独自の打撃力や抑止力を強化し、敵基地攻撃能力を保有することは、アジア太平洋地域における米国の負担を肩代わりさせるトランプ政権の意向に沿うだけでなく、集団的自衛権行使の容認により加速した自衛隊と米軍の一体化をさらに進め、日米の役割分担を変質させることになる。
4.敵基地攻撃能力の実効性にも疑問が残る。攻撃をするには相手の弾道ミサイルの精密な位置を知ることが重要だが、地下や移動発射機の探索は困難であり、固体燃料式弾道ミサイルを発射準備中に見つけだして攻撃することも不可能である。リアルタイムの監視や攻撃のためには、膨大な数の偵察衛星や常時多数の作戦機を滞空させる必要があるが、「専守防衛」を原則に積み重ねてきた装備体系を大きく変え、ただでさえ拡大している軍事費も大幅増につながる。また、何をもって日本への「攻撃の着手」と判断するのかの見極めも難しく、敵基地攻撃は、国連憲章や国際法に違反する「先制攻撃」にもなりかねない。軍事衝突を誘発すれば国際的に非難され、反撃されれば即、核の報復攻撃や全面戦争に発展しかねない。
5.安倍首相はかねて敵基地攻撃能力保有に意欲的だが、米国のオバマ政権当時に、周辺国を刺激すると懸念を示し、見送った経緯がある。敵基地攻撃能力の保有は、周辺国の緊張を不必要に高め、北東アジアの軍事緊張も激化させかねない。武力に武力で対抗するだけでは平和で安全な地域づくりには、つながらない。憲法を逸脱する敵基地攻撃能力保有の検討を断念し、近隣諸国との有効な関係づくりにこそ努めるべきである。
以上
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